PAST ACTIVITY
筆者が担当する女性を対象としたカウンセリングには、子育てに関する悩みの相談が多く寄せられた。特に若い世代の母親のとまどいや不安が大きく、それらは個人的な要因に起因するものばかりではないと考えられるが、相談事例では個人が全面的に抱え込み行き詰まっている状況が見られた。そこで個人の問題から全体の問題として考えていく必要性を感じ、お母さんのための子育て勉強会を開催した。以下、その概要である。
「子育て勉強会」は、若いお母さんを対象に、二年間72回実施した。そのやり方は講師の話を聴き知識を吸収する一方向の形でなく、参加者同士が悩みや不安を分かち合い、情報を得、互いに気持ちをフィードバックしていくことで、自分の子育てを肯定的に見られるようになる方法を採った。その結果、閉塞的になりがちな子育ての見方や日常に対し、癒しの機能も持った学習会となり、良い効果が見られた。
個々の参加者が子育てを振り返り、日々の子どもとの関わりや生活の仕方などに、余裕を持って関われるようになった。「私の子育てはこれでいいんだ」と自己肯定できる場となった。
1999年○月○日(金)午前10:00~12:00
テーマ「『いいお母さん』から『ラクなお母さん』へ」
参加者2名
子育てにまつわる不安や悩みを軽減し、より安定した親子関係をつくり、家族のコミュニケーションを改善する。
毎月一回土曜日の午後1時から3時の2時間、子育て勉強会(以下、勉強会と略)を開催。場所は筆者の所属するカウンセリングルームの一室。人数は6、7名。両親が勉強会に参加する間、子どもたちの保育は外部(当ルームより徒歩15分)の保育室に委託。勉強会への参加、保育室利用、ともに有料。
概ね上記のプログラムで進むが、時には参加者から緊急に共有したい課題が提供され、それをテーマとして取り上げることもある。少人数の利点を生かし、テーマの設定や進行の手順などは柔軟に展開することとしている。現実の日常生活における課題の解決や軽減を優先するためである。
(補足) 勉強会は1999年に発足。当初2年間は母親のみが対象であった。1年間休会の後、昨年(2002年4月)からは、母親達からの強い要望により父母揃って参加対象とした。(ただし、父母のどちらか一方のみの参加も可能。)
本発表に当たり、今までの勉強会参加者にアンケートの回答を求め、その回答を基に、筆者の考察を加えた。(アンケート・回答共に省略。ポスター発表時、詳細報告)父親も参加対象とする勉強会がスタートして1年5ヶ月になるが、アンケートの回答にもあるように父親達は当初渋々参加し、両親揃っての継続が危ぶまれた。しかし1年を経過する頃から、次第に会の目的と方法が理解されて継続し今日に至っている。諸々の事情により毎回全員揃うとはいかない。
①勉強会に参加することにより、夫と妻双方が、お互いを以前より理解できるようになったと評価している。
アンケートでは、夫婦が互いに相手(の人物)に対する理解や、または相手の仕事(職場・家事・子育てなど)に対する理解を進めることができたかとの問いに全員が「はい」または「『はい』に近い」を選択。
しかし、「夫婦の会話が増えたか」との問いには「いいえ」あるいは「どちらとも言えない」を選んだ回答が各1ずつあることから、家庭での会話が必ずしも夫婦の理解につながっているのではなさそうである。だとすれば、夫婦が勉強会に参加する中で夫あるいは妻の思いや考えを聞くことで理解が進んだり、他の参加者の意見が参考になって自分とパートナーの関係を見直したりという、勉強会を通して夫婦がお互いを理解する機会となっているということが考えられる。
勉強会が家庭における夫婦のコミュニケーションの調整役を担っているとも言える。このことは次のようなアンケートの記述式回答にも表れている。
「目の前でパートナーの本音が聞ける上、仲間がそれに対してすぐにその場で意見を述べてくれるので、家庭で2人で向き合うよりラクである。(妻の回答)」勉強会が夫婦のコミュニケーションの改善に役立っているとみることができる。 母親のみを対象とした勉強会ではしばしば母親達の口から「お父さんが参加してくれないと解決しない」と言う言葉を聞くことが多かった。どのテーマで学んだときも最終的には父親への期待が語られた。これは課題の解決のために父親の支援が必要というよりも、母親とともに子どもに関わる存在として一緒に考えてほしいという母親からの要望であったと考えられる。
父親が参加することで、母親の気持ちに余裕ができた。その上で、共に学びを共有することがお互いの理解につながったと言える。父親の参加の意義はきわめて大きい。
②勉強会は、自分の子どもや家族に関わる身近な問題を契機に、教育全般の問題や環境問題、政治や性差の問題についてなど、子育ての周辺へ視野を広げることに役立っている。また逆に、そうした子育ての周辺の状況に関心を向けることは、自分の子育てを客観視し、子育て上の課題を家族だけで抱え込んで行き詰まることを防ぐ効果がある。
アンケートの「子どもを取り巻く状況について以前より関心を持つようになった(項目)」として、幼稚園や学校生活・教育全般・政治・環境・性差・福祉・人権・その他『平和・人生』を全員が3~8項目選択。)
③勉強会に参加したことにより、必ずしもすぐに子どもとのコミュニケーションがうまくいくようになり、問題が解決しているというわけではない。 しかし、「すぐに答えが出なくても不安でなくなった。」の回答に「はい」が5、「[はい]に近い」が1と全員が不安の軽減に役立っていると回答している。 また、その一端として「多様な意見が聞けて役立っている。」も、「はい」が5、「はいに近い」が1と、不安を軽減する要素として意見や情報の交換が役立っていることを示している。
こうしたアンケートの回答に見られる成果を上げるためには次のような点に留意してきた。
①分かち合いの効勉強会では随所に「分かち合い」の手法を取り入れる。勉強会の始まりでは、分かち合いは自己紹介をかね、参加者は順番に、参加の動機、近況などを短く語る。一人が話している間、他の参加者は黙って耳を傾ける。意見や感想などで話を妨げない。その際、最初に全員で次のことを約束しておく。「(他者のことでなく)自分の思いや気持ちを語る。ここで語られたことを外で話さない。話したくないときはパスできる。」これらを共通の約束として確認しておく。
このようにして勉強会が安心して自分の思いを出せる場であることを保証する。勉強会の進行の途中で、分かち合いの方法を使って、個々の参加者が課題に対してどのような意見や感想を持っているか、テーマを掘り下げていかれるように、講師が適宜リードする。 「分かち合い」によって、参加者はどのような意見や感想も尊重され、ありのままの自分を受け入れてもらえる体験をする。この、安心してありのままでいられる体験が、勉強会の基調になっている。
② 父親が参加しやすい工父親にとって子育ての勉強会は敷居が高い存在であるので、参加しやすい工夫が必要である。そのためには、欠席した場合も疎外感を持たずに、次回共通のスタートラインで始められるよう、参加メンバーの中から担当を決めて簡単なまとめの作成を依頼した。それを全員にメールやファックスで流した。 また、各々の家庭で出た子育てに関する疑問や気づいたことなども、プライバシーに関わらない範囲で、できるだけメールやファックスで流し、共通の話題とした。 家庭内における父母の情報の共有にも気をつけた。
できるだけ、夫婦単位でなく個人単位で情報を送った。
夫婦単位だと母親の方に情報が集中しやすいためである。
③個人の課題の背景としての社会状況への理解を深めるための情報提供。 (講師から情報を流すだけでなく、参加者からの情報も交換するようにした。)
夫婦が互いの理解を深め、子どもに良い関わりをつくっていく契機としての学習の場として、勉強会は参加の父母達からその意義を認められてきており、さらに改善を加え、要望に添うものとしていくことが望まれる。今後の課題は次の3点である。①「自由に語る時間」と「テーマに基づく学習の時間」の構成の工夫。②毎回の具体的なテーマの設定。③経費・保育料・参加人数等の運営上の問題。